イオン交換樹脂のイオン分離に関する選択性を解明するために、おもに2つの観点から検討を行った。一つは、イオン交換樹脂中でのイオンの溶媒和状態を評価するアプローチであり、他はイオン交換現象を物理的により確かなモデルによって記述するアプローチである。前者の主要な点は、平成8年度末の実績報告書に報告したので、おもに平成9年度に行われた後者の結果について詳述する。イオン交換樹脂表面を、一定の荷電密度を持つ荷電表面であるとみなすと、イオン交換樹脂の表面からバルク溶液相に向かう連続的な静電ポテンシャルを仮定することができる。イオン交換樹脂を、平面と仮定した場合と、円筒形の細孔を持つと仮定した場合について、種々の計算を行った。また、計算と実験結果の整合性について検討を行った。単純なイオン交換の場合、静電ポテンシャルによる効果だけではイオン交換の選択性を説明できないので、表面での化学的な相互作用を仮定した。その結果、単純な化学量論から推定される関係が破綻することが認められ、実験からもこれを確認した。また、イオン交換基、あるいは対イオンがポリエーテルと相互作用する系についても同様なモデル化を行った。これらの系では、化学量論からは全く予想できない異常な挙動が実験から得られた。この異常を本研究で提案したモデルにより説明できることがわかった。 このほかにも、分離系と音場の相互作用に関する検討を行い、音場によって運ばれたエネルギーが熱の形で分離系に伝わり、その結果保持を変化させ得ることを認めた。イオン交換系では、イオンの溶媒和半径によって音場による保持変化がことなり、音場が分離の新たな外部パラメーターとして使用可能であることと保持機構の解明に音場を用い得ることが示唆された。
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