NMR-スピン格子緩和時間からピコ秒オーダーの分子内電子移動速度定数を決定する方法を確立し、この手法を混合原子価二核フェロセン誘導体の電子移動速度に対する溶媒効果の解析に応用した。本年度は、この手法を、測定条件や解析のプロセスをさらに吟味することにより、より信頼性や精度の高い速度データを得ることができるように改良した。また、先年度の速度定数に対する溶媒効果の結果を考慮して、数種類の溶媒を新たに選択し、その速度定数を決定した。また、可視、近赤外吸収スペクトルや振動スペクトルの測定から、内圏、外圏の再配列エネルギーなどの反応パラメーターを決定した。これらの結果を、溶媒の動的な効果を考慮した理論より解析した。結果を以下にまとめる。 1.分子内振動あるいは反応に比べ高速な溶媒のゆらぎの寄与を無視した理論は、実験値に比べ、2桁程度小さい速度定数をあたえた。 2.分子内振動あるいは高速の溶媒の運動モードを古典的にあつかったSumi-Marcus理論の適用は、実験値の再現において、1に比べかなり改善された結果を与えた。 以上のことから、本系における溶媒の動的効果に関しては、以下のことが結論される。 1.溶媒の局所的な高速モードが速度定数に関して重要な効果をあたえる。 2.本系では、反応系と生成系は常に平衡状態に保たれている点で、これまでの光励起過程を含む超高速反応系と異なっている。本系では、反応系と生成系双方に対する擬似的な溶媒和平衡を考慮する必要があることが示唆された。
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