研究概要 |
磁性流体とは、半径が数nmの大きさのそろったフェライトのような強磁性体の微粒子を、その表面を界面活性剤で密に被覆し、有機溶媒や水などの液体溶媒中に高密度で分散させた粒子コロイドのことである。その粒子の半径は約10nmであり、界面活性剤が1層であれば親油性、2層であれば親水性を示す。本研究においてはこうした磁性流体を希釈懸濁化した溶液に色素分子を共存させ、この色素の蛍光変化を調べた。すなわち磁性流体コロイドは、印加磁場のもとにおいては、磁場の向きにクラスターを生成させ、科学的異方性を示すと考えられる。こうした磁気異方性にともなって、共存する色素のうち磁性流体微粒子と相互作用の強いものは、微粒子の動きにつられて磁気異方性を示すようになると考えた。市販品を含む数種の磁性流体を調べてみたが、まず第1層リノール酸、第2層ポリエチレングリコールラウリルエーテルの水溶性磁性流体を希釈した溶液では、ロ-ダミン骨格を持ったRhodamine BやKiton red 620の蛍光は、磁場方向に対して垂直な偏光で励起し同じく垂直な偏光蛍光を測定した場合、磁場の印加によって2倍以上蛍光強度が増大する。しかしAO-Dodecyl bromideなどではほとんど変化は見られなかった。このような結果は、磁性流体の磁場下でのクラスター生成にともない、分子の形状に応じてクラスターとの相互作用の変化を示していると考えられる。さらにオレイン酸を界面活性剤とする親油性磁性流体希釈懸濁液にアントラセンの7種の異性体を共存させたところ、9,10-dimethylanthraceneのみが、磁場の印加によって蛍光強度が減少した(励起・蛍光とも磁場に平行偏光)。以上の結果は、磁性流体の選択を適切に行うことによって、分子の構造を認識する方法ができる可能性を示していると考えられる。
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