研究概要 |
出芽酵母の細胞の形態形成はRho型GTPaseなどの分子スイッチにより制御されていることを我々は明らかにしてきた。本年は、Rho型GTPaseの直接の標的酵素である、1,3-β-グルカン合成酵素の遺伝学的解析に焦点をあてて研究を行なった。出芽酵母の細胞壁は主にグルコースが直鎖状に連結した1,3-β-グルカン繊維にマンノースが付加した細胞壁蛋白質が沈着して出来ているが、その1,3-β-グルカンの合成酵素の触媒サブユニットの温度感受性変異株(fks1)を単離し、その表現型を詳細に解析した。触媒サブユニットは、FKS1とFKS2という2つの遺伝子によってコードされているため、fks1 fks2の二重破壊株は致死になる。そこでグルカン合成酵素の温度感受性変異株は、二重破壊株に変異を持ったfks1を持つプラスミドを導入して作成した。典型的な変異株であるfks1-115は推定上の基質結合部位近傍に変異を持ち、in vitroでのグルカン合成酵素活性が特に制限温度下で顕著に低下していた。グルカン合成酵素の変異株が細胞周期の時期のどこで停止しているかを調べると、90%以上の細胞がDNA複製後に増殖を停止していることがわかった。この時に、細胞内におけるM期サイクリン、Clb2pの量が低下しているので、まだM期には進行していないことがわかる。さらにこの時にM期サイクリンであるClb2pを過剰発現させると、細の形態は異常なままで核分裂が進行した。以上の結果は、グルカン合成を阻害して細胞壁合成、細胞の体積増加ができなくなると、細胞周期を完全に停止させる未知のフィードバック機構が存在することを示唆している。
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