研究概要 |
Rholpのターゲットのひとつである1,3-β-グルカン合成酵素の遺伝学的解析を行ない、Rholpによる細胞形態形成のメカニズムの解明にせまった.出芽酵母の細胞壁は主にグルコースが直鎖状に連結した1,3-β-グルカン繊維にマンノースが付加した細胞壁蛋白質が沈着して出来ているが、その1,3-β-グルカンの合成酵素の触媒サブユニットの温度感受性変異株(fks1)を単離し、その表現型を詳細に解析した。合計で10の温度感受性を解析した結果、推定上の基質結合部位近傍に変異を持つ4つの変異株では、in vitroでのグルカン合成酵素活性が特に制限温度下で顕著に低下していた。こうしてグルカン合成が欠損した変異株の表現型を解析すると、多くの細胞が小さな芽様の突起を出して増殖を止めていることが分かった。この結果から、細胞の形態形成のステップで、正常な形をした芽をまず形成することが1,3-β-グルカン合成の意義であると推測された。また、in vitroでのグルカン合成酵素活性が顕著に低下していない残りの温度感受性変異株は2つのクラスに分けられた。N-末付近に変異を持つ変異株では、やはり細胞レベルではグルカンを合成することができなくなっていた。これらの変異株では、in vivoでの活性化に必要な因子との結合ができないことが推測される。最後のクラスの変異は、推定上の基質結合部位のN-末側に位置し、in vivoでも細胞壁形成を行っていた。その代わり、細胞壁形成が芽には局在化しておらず、母細胞が大きくなっていたため、局在化した細胞壁合成能に欠損があるのではないかということが推測された。このように、グルカン合成酵素の変異株の解析からは、正常な芽を出すことが、1,3-β-グルカン合成の意義であるものの、そのためにはグルカン合成酵素に対して、位置的な情報も含めて様々なシグナルが伝達されていることが示唆された。
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