水辺を生育場所とする6種のイヌタデ属植物、絶滅危惧植物のカワラノギク、河原への侵入が目立つオオブタクサ、および放棄水田跡地の土壌シードバンクについて、種子の休眠・発芽特性の分析、採集土壌に含まれる生存種子のシードリングエマージェンス法による分析、種子の野外放置・回収による土壌中での種子の動態調査、などの手法をもちいて分析し、土壌シードバンクの動態とその生態的意義について研究した。 この研究を進めるにあたって開発した土壌シードバンク調査用の実験装置は、シードリング・エマージェンス法による土壌シードバンク組成の把握の有効性や、装置内に実験的においた種子の休眠・発芽動態の研究においてきわめて有効性であることが明らかにされた。この装置は、水分を飽和に保ち温度を自然裸地の土壌温度と同様に変化させるという目標にかなうものであり、水辺植物の土壌シードバンク組成や種子動態の研究にとって十分に有効なものであることが示された。一方で、土壌シードバンクの解析や小規模なまきだし実験から、水辺や放棄水田跡地の土壌は植生復元のための有望な材料であることが示された。さらにイヌタデ属植物6種の種子休眠・発芽特性を実験室で詳細に分析するとともに、上記実験装置を用いて水分を飽和に保つ条件および自然の水分変動に任せる条件における種子の状態を追跡したところ、イヌタデ属植物の湿潤な水辺における休眠・発芽のタイミングの予測のためには、主に温度環境を考慮すればよいことが明らかにされた。一方、種子の発芽・休眠温度特性は、その種の土壌シードバンクの動態を推測する上で有益な手がかりを与えることが示された。
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