研究概要 |
植物の形態形成や成長生理を理解する上で変異体を用いた研究は有効なアプローチである。昨年度に引き続き過剰発現型T-DNAベクターを用いたタギングラインの研究を進めた。昨年度に作出した700のタグ系統に加え、新たに約1300系統を作出し、下胚軸の近赤外光により伸長抑制を指標として光応答に異常が見られる変異体の選別を行った。その結果3ラインの矮性突然変異体が見いだされた(chi(chibi)変異体)。これらの変異体は全てdet2,cpd,dim等の既知のブラシノステロイド欠損突然変異体と極めて類似する形態を示した。ブラシノステロイドの合成に異常が生ずると暗所でも部分的な光形態形成が起こることが既に報告されており、ブラシノステロイドと光応答に何らかの関係がある可能性が高い。そこでこれらの変異体の詳しい解析を進めた。我々が単離したchi変異体のうちchi1,chi3は劣性の変異であったが、chi2-1は優性の変異であった。過剰発現により表現形が表れる場合、その変異は優性であることが期待される。そこでchibi2-1についてさらに研究を進めた。まず遺伝学的な解析を行ったところ、変異は第1染色体上腕にマップされた。この近傍に矮性変異の遺伝子座は報告されていない。また変異と挿入T-DNAとは共分離した。次に、T-DNA挿入域近傍の塩基配列を決定し、原因遺伝子の候補となる遺伝子を同定した。同遺伝子についてノーザンブロット法によりmRNAを調べたところ過剰発現が確認された。さらに、この遺伝子の過剰発現が矮化をもたらしたことを確認するため、同遺伝子を過剰発現する遺伝子導入植物を作出したところ、高い頻度で同様の表現形が認められた。以上に研究によりブラシノステロイドの作用に関わる新規の遺伝子が同定できた。
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