フィトクロムは緑色植物に普遍的にみられる色素蛋白質で、光形態形成反応の光受容体として、発芽から花芽の形成まで様々な発生過程を制御している。長年の研究にもかかわらず、フィトクロムが受け取った光情報がどのような因子にどのように伝えられるのか全く不明であった。そこで研究代表者らは、分子遺伝学的手法を用い、フィトクロムの情報伝達の分子機構解明に向けて研究を行った。研究は、大きく2つの方向から行った。すなわち、フィトクロムの情報伝達や光形態形成に関わる遺伝子を探索する目的で過剰発現タグ系統を多数作出し、その中から選別した光応答に異常が生じた変異体の解析を進めた。同時に、フィトクロムの情報伝達機構を明らかにする目的で、フィトクロムの核移行に関する研究を行った。 変異体の解析に関しては、過剰発現タグ系統の中から弱光下で緑化が部分的に進行してしまう変異体を単離し、この表現形の原因遺伝子が新規のチトクロームP450をコードすること、この遺伝子の過剰発現によりブラシノライド欠損型の表現形が現れることを証明した。残念ながらこの表現形はフィトクロム応答に特異的というわけではなかったが、最近ブラシノライドと光形態形成の関係は注目を集めており、この遺伝子を利用することにより、光とブラシノライドとの関係について様々な知見が得られると期待される。 また、フィトクロムの細胞内分布については、phyB-GFP融合蛋白質をphyB欠損変異体で発現させることにより、生理活性をもったphyBの細胞内分布を生きたままで観察することを初めて可能にした。この結果、phyB-GFPが光依存的に核に移行することが確認され、核がphyBが機能する場の少なくとも一つであることが示唆された。従来、フィトクロムは細胞質で働くとされてきたが、本研究の結果はこの「常識」に見直しを迫るものである。
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