高等植物細胞はその形態の形成・維持、分裂、分化の過程で微小管をはじめとして細胞骨格系が重要な働きをしているが、それらの機構と関連するセルロース合成制御機構はとりわけ重要である。しかしながら最近までセルロース合成酵素複合体の同定が高等植物において成功していなかったのでその制御機構や表層微小管との相関関係など重要な課題が未解決のまま今日まで残されてきた。我々はチューブリンが組み込まれた直径10nmの顆粒が植物の細胞膜に存在し、しかもこの顆粒がin vitroでセルロースを合成することを発見し、この顆粒の性質・機能の解明に取り組んできた。この10nm顆粒はチューブリンのほか15、33、35、40、42kDのペプチドから構成されており更に65kDタンパクが表面に付随していると考えられた。抗体をウサギから作成し、それぞれの構成タンパクの機能をある程度推測することができた。35kDタンパクに対する抗体をin vitroセルロース合成系に添加すると顕著な阻害効果がみられたが、15kDタンパクに対する抗体ではセルロース繊維の長さの促進がみられた。現在これらの構成タンパクの一次構造の同定と遺伝子のクローニングを目的としてアズキcDNAライブラリーよりこの抗体を用いたスクリーニングによりおよそ100個の陽性コロニーを分離することに成功しているので近い将来これらのタンパクのアミノ酸シークエンスが明らかにできるはずである。バクテリアのセルロース合成酵素には勿論チューブリンは存在しないしそのほかのタンパクもかなり異なっておりその制御機構もかなり植物のものとは異なっているようである。このような植物独自の仕組みを明らかにすることがこの系では可能であると思われる。
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