研究概要 |
植物の成長・分化や形態の調節において中心的な役割を果たしている細胞壁多糖がどのような過程で合成・分解されるかは、植物生理学上の重要な課題である。今年度は、単子葉イネ科植物の細胞壁構築の中核を担う(1→3),(1→4)-β-グルカンの二段階分解過程を解析し、それに関与する酵素をイネ幼葉鞘細胞壁より抽出・精製した。 水中で速く成長しているイネ幼葉鞘の細胞壁標品より1M NaClを用いて抽出される細胞壁タンパク質画分には、(1→3),(1→4)-β-グルカン分解活性が含まれていた。この分解活性を各種カラムを用いて精製したところ、数種の画分に分けられた。精製酵素の反応過程をHPLCで解析した結果、これらの多くはエキソ型の分解反応を示したが、中間的な大きさの産物を生成するエンドグルカナーゼも含まれていた。エキソグルカナーゼは、最終的に3つのサブフラクションに分けられた。その分子量はいずれも約60kDaであり、等電点のみが異なっていた。そのN末のアミノ酸配列は、オオムギ穎果で報告されているグルカナーゼと約60%の相同性を示した。 細胞壁内でのこの酵素の実際の気質は、エンドグルカナーゼの作用によって産生される分子量1〜2万の(1→3),(1→4)-β-グルカンであると推定されるが、in vitro系では分子量100万程度の高分子グルカンをも分解し、(1→3)-β-グルカンに対して(1→3),(1→4)-β-グルカンより強い作用を示すことがわかった。以上のように、今年度の研究の結果、(1→3),(1→4)-β-グルカンの二段階分解過程のうち、特に後半を司るエキソグルカナーゼがイネ幼葉鞘細胞壁より抽出・精製され、その作用機作が明らかになった。
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