研究概要 |
魚類の卵と精子の成熟は、下垂体から分泌される生殖腺刺激ホルモンの働きにより卵巣と精巣で生成される卵・精子成熟誘起ホルモン(配偶子成熟誘起ホルモン)の作用で起こる。我々は先にサケ科魚類の配偶子成熟誘起ホルモンをプロゲステロン系ステロイドの17α,20β-ジヒドロキシ-4-プレグネン-3-オン(17α,20β-DP)と同定した。本研究は、前駆体17α-ヒドロキシプロゲステロン(17α-P)を17α,20β-DPに転換するステロイド代謝酵素であるステロイド20β-水酸基脱水素酵素(20β-HSD)の遺伝子をクローニングし、生殖腺刺激ホルモンによる発現調節機構を解析することを目的とする。平成9年度は、ニジマスの20β-HSDのクローニングを行い、以下の結果を得た。 前年度に得たアユ20β-HSDcDNAクローンをプローブとして、ニジマスの卵胞cDNAライブラリーより2種類の20β-HSDcDNA(A、B)を単離し、全塩基配列を決定した。両者がコードするアミノ酸の配列を比較した結果、AとBは3個のアミノ酸のみが異なることが判明した。クローンAを発現させたCOS細胞を17α-Pとインキュベーションすると17α,20β-DPの生成がみられたが、Bを発現させたものでは17α,20β-DPの生成はみられなかった。AのNADPH結合ドメインのアミノ酸配列はブタやアユの20β-HSDcDNAのものと同じであったが、Bでは1個のアミノ酸が異なった。次に、成熟直前のニジマス卵胞から分離した莢膜細胞と顆粒膜細胞をサケの生殖腺刺激ホルモンあるいはフォルスコリンとともに0-48時間培養した後、これらの細胞標品での20βHSDmRNAの発現をAとBを用いたノーザンハイブリダイジェーションで解析したが、それらのグループ間における20β-HSDの発現に顕著な差は認められなかった。これらの結果は、生殖腺刺激ホルモンは直接には20β-HSD遺伝子の発現を促進しないことを示唆し、これまで我々が各種の蛋白質・RNA合成阻害剤を用いて得た結果とは異なる。
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