最近の筋収縮運動を含む生体運動機構研究においてはスライドグラス上に運動タンパク質であるミオシン、ダイニン、キネシンを付着させ、その上を繊維タンパク質であるアクチンや微小管を運動させるいわゆる再構成運動系による研究が盛んになりつつある。しかしこれらの実験の多くでは移動速度のみが測定されている。しかし筋肉など生体内の運動系は張力を発生する事が大きな機能であり、その意味から現在行われている再構成運動系で荷重変化実験が行われないのは不十分である。 筆者は再構成運動系で磁場を用いた荷重変化実験を計画し、本年はそのための装置の試作を行った。この運動系では繊維タンパク質または運動タンパク質に磁性体ビーズを付着させそれに強力な磁場を与える必要がある。まず直径2-5μmの磁性体ビーズにミオシン分子を付着させアクチン繊維上を移動する場合にどの程度の張力を発生するか遠心顕微鏡を用い測定した。移動しているビーズが遠心力により停止する荷重は最大約50pNであった。これに必要な磁場は計算によると5000エールステッド程度であり、それ以上の磁場をコイルに電流を流し発生させなければならない。何回かの試作の後8000エールステッドの磁場を発生させる電磁石を作る事に成功した。この時コイルを流れる電流は120A(6V)であり、コイルは相当の発熱を示すが、中空コイルを採用しその中心部に冷却水を循環させ温度上昇を防ぎほぼ期待した性能を得た。また120Aの電流を急速に制御する電気回路を作製し3ミリ秒以内に磁場を変化させ、本年の目標とした装置の開発にほぼ成功した。今後は顕微鏡の視野で運動を観察しつつ荷重を変化させる再構成運動系を開発し所期の目的を果たしたいと考えている。
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