研究概要 |
本研究は脳の各部のニューロン構築を調べることで、昆虫の脳の機能を探ることを目的とした。昆虫の脳には視葉、嗅葉、キノコ体、中心体などの明確な構造が区別される。これらの構造を組織学的に調べると共に、各構造の微小破壊や局所電気刺激の効果から各部の機能を追究した。さらに、行動様式の異なる昆虫の脳を比較することにより各部の機能を検討した。 1,系統学上古いとされるワモンゴキブリと最も進化したミツバチの脳を比較した結果、キノコ体の構造に顕著な差異が認められた。両種共、キノコ体はカサ、柄、α葉、β葉からなり、その配置は類似していた。ミツバチでは杯状のカサの部分に縁、側面底面が区別され、柄の部分でもこの3区分は明確であった。他方、ワモンゴキブリではカサ、柄とともに均一な形態を持つ、ミツバチの発達したキノコ体は、この種に特徴的な高い学習能力を反映している可能性を示唆している。 2,膜翅目のアリ、スズメバチのキノコ体もミツバチと同様複雑な形態を示すことから、キノコ体の発達は社会性と関連すると考えられる。これは、非社会性の昆虫であるハエ、甲虫、トンボなどのキノコ体が相対的に小さいこと、バッタではカサの一部が欠落していることからも裏付けられた。 3,キノコ体はカサの部分で入力を受け、α葉、β葉で出力ニューロンに連絡する。キノコ体の内在ニューロンはキノコ体の外に樹状突起や軸索をのばすことはない。この形態からキノコ体は異種感覚の統合を連合学習の場であることが示唆された。 4,中心体は脳の中心部に位置する左右相対の構造である。種間による差異が少なく、この部分の電気刺激や破壊が個体の異常な回転運動を引き起こすことから、中心体は歩行や飛翔時の方向転換に関わると考えられる。 5,嗅葉、視葉も種特異的構造を示すが、感覚入力の場であるので、詳細は割愛する。
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