本年度は、生きた化石として知られ、系統学的位置が不明な腕足動物門のミトコンドリアDNA(mtDNA)ゲノム構造の解析を行った。有関節類のホウズキチョウチンLaques rubellusと無関節類のミドリシャミセンガイLingula unguisのmtDNAを超遠心法により精製またはPCR法により増幅した後、クローン化し、その全塩基配列を決定した。ゲノム上の遺伝子配置を比較したところ、これら2種の腕足類の遺伝子配置は著しく異なっており、共通する遺伝子配置を見い出すことができなかった。また、これらの腕足類の遺伝子配置はいずれも他の動物門の遺伝子配置とは大きく異なっており、真体腔動物群に共通する配置から大きく逸脱していることが分かった。一方、腕足類が真体腔動物群の一員であることは形態学的知見や18SrRNAを用いた解析から示されており、このことはホウズキチョウチンのmtDNAにコードされている蛋白質遺伝子のアミノ酸配列を用いた分子系統解析によっても支持された。これらの結果は、腕足動物門においては、mtDNAのゲノム構造の変化する速度が速くなっていることを示している。mtDNAの遺伝子配置は、腕足動物門内で多様に変化していることが予想されるので、腕足動物門内の系統関係を解析する分子マーカーになると考えられる。また、一部の軟体動物ではmtDNAのゲノム構造変化の速度が著しく速くなっていることが申請者らの研究によって分かっていたが、今回の研究結果は、このような現象が軟体動物に限ったものではなく、複数の動物門においても独立に生じていることを示唆する。
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