研究概要 |
本年度は下記の2つの実験を行った。 (1)ヒトのテロメア配列(TTAGGG)_nを認識できる配列(CCCTAA)_7をプローブ(プライマー)として用いたPRINS(PCR in situハイブリダイゼーション:染色体上で鋳型DNAの増幅を行う)法で、ヒト、チンパンジー、ボノボ、ゴリラ、オランウータン、シアマン、テナガザルの各々のテロメア部位を検出した。その結果、染色体両末端だけでなく構成ヘテロクロマチンが多い領域にも、強いハイブリダイゼーションシグナルが観察された。末端に多量の構成ヘテロクロマチンを有する種(チンパンジー、ゴリラ、シアマン)は、特に顕著な反応を示した。オラウータンは、8対の常染色体の短腕基部に多量の陽性が認められた。これらの結果は、テロメア配列と構成ヘテロクロマチンが非常に高い親和性を有することを物語っている。PRINS法は従来のFISH法よりも反応が鋭敏であり、背景のノイズが少ない。 (2)ヒトでは、rDNAとβ-サテライトは同じ部位に位置することが知られているが、他のヒト上科の種における関係は明らかにされていない。そこで、ヒトの18srRNA遺伝子をコードしているDNA(18srDNA)とβ-サテライトDNA(ヒト染色体13,14,15,21,22に存在)をプローブとして用いた2色FISHを行った。β-サテライトDNAの局在部位は以下の通りであった。ヒト:rDNA染色体の短腕先端、いわゆるサテライト部位及び第1染色体のセントロメア。チンパンジー:rDNA染色体の短腕基部、1対の常染色体、Y染色体。ボノボ:1対の常染色体、Y染色体。オランウータン、ゴリラ、シアマン、テナガザル(染色体数44):ハイブリダイゼーション部位は認められなかった。これは、rDNAとβ-サテライトは必ずしも常に同じ部位に存在するとは限らないことを示している。
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