研究概要 |
1.ヒト上科におけるrDNAとβ-サテライトDNAのゲノム内分化とその進化的解釈:上記2種の反復配列DNAのゲノム内分散機構を標識として、ヒト上科における両DNA族の進化様式を推考したところ、ギボン、シアマン、オランウータン、ゴリラ、ヒト、チンパンジー、ボノボの分岐順位が仮定された。 2.キアズマグラフ法とテロメア配置から推考した新しいキアズマ概念の解釈:マウス(Mus platythrix)(染色体数n=13)の減数分裂移動期におけるテロメア配置を検出したところ、顕微鏡観察で末端キアズマと判断される部位では、4姉妹染色分体末端の4個のテロメアが均等な接触(正方形を形成する)をしていることが確認された。一方、腕内キアズマと確認される部位では、同一染色体姉妹染色分体のテロメアは、相同染色体(異なる染色体)のテロメア間よりも遠い関係にある(長方形を形成する)ことが明らかになった。すなわち、末端―末端接合はテロメア同士の接触であり、交叉とは言えないことから、これは本来のキアズマと判断すべきでないと結論した。 3.構成ヘテロクロマチン(C-バンド)部位が与えるキアズマ形成への影響:セントロメア近傍だけにC-バンドを有するアカゲザルと染色体末端や介在部にC-バンドを有するフサオマキザルのキアズマ頻度と位置を観察したところ、キアズマグラフ法の解析からC-バンドがキアズマ形成部位に強い偏向を与えていることが確認できた。頻度は、それぞれ前者がFXi=23.8,FXit=42,後者がFXi=27.2,FXit=41.4であった。 4.チンパンジーのキアズマ形成:チンパンジーの精巣のバイオプシーによって得た精細管から、減数分裂染色体標本を作製し、キアズマ形成機構を観察した。アカゲザルとの非類似性およびフサオマキザルとの類似性を検出した。今後は、セントロメアおよびテロメアの位置キアズマ形成位置との関係と明確にしていきたい。 5.テロメア配列と構成ヘテロクロマチンの関係:ヒト上科の染色体におけるテロメア配列の存在位置を検出したところ、染色体両末端だけでなく構成ヘテロクロマチン部位にも組込まれていることが明らかになった。特に染色体末端にヘテロクロマチンを有する種(チンパンジー、ボノボ、ゴリラ、シアマン)において顕著であった。
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