研究概要 |
III2VI3化合物半導体の代表例としてGa2Se3を取り上げ,その結晶構造と相安定化機構を検討した.Ga2Se3では630℃に相転移点があり,低温相,高温相とも閃亜鉛鉱型構造を基本としている.低温相は構造空孔が規則配列した空孔規則相で,X線リ-トヴェルト解析からa=0.6661nm,b=1.1653nm,c=0.6650nm,b=108.83°,空間群Ccの単斜晶であることが判明した.SeのGa配位数は2配位と3配位に限られ,しかもその割合は1:2であり,Seの平均Ga配位数8/3からの偏差が最も小さくなる配位状態にあった.構造空孔に向けて周囲の原子は大きく変位していたが,平均格子でみるとc/a=1.01の正方晶になっており,構造空孔も含めて平均結合電子数が4という共有結合性は強く維持されていたといえる.一方,高温相では構造空孔の規則化による規則反射は消え,代わって逆格子の〈111〉方向にストリークが観察された.対応する高分解能電子顕微鏡像には不規則に配列した{111}空孔面が観察された.この相では原子数が数十程度からなる領域では組成は本質的に不均一で,原子数が数千個のメソスコピックな領域になって初めて結晶全体の組成と一致するという特徴を持つ.高温相では基本的に4配位のGa配位が支配的になっているが,試料温度とともに4配位の割合が減少し,高温になればなるほど平均配位数8/3のまわりに0から4配位まで確率的に分布する固溶体に近づく.したがってメソスコピック相の本質としては,数十程度からなる領域で温度に対応した理想的な結合を形成し,組成の調整を{111}空孔面で行うという安定化機構を持った相と結論できた.
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