銅系酸化物高温超電導体における超伝導現象は、母相である絶縁体にキャリアを注入することによって誘起される絶縁体-金属相転移と密接な関係にある。本研究では、銅系酸化物高温超伝導体の元素置換(ド-ピング)により誘起される絶縁体-金属相転移近傍でのキャリアの移動や分布を探る手段としてラマン散乱の可能性について系統的な研究を実施した。銅系酸化物高温超伝導体における各々の結晶部位が関与するフォノンを偏光ラマン散乱を用いて選択的に観測することにより、絶縁体-金属相転移に伴う電荷移動をプローブできることを新規に提案した。とくに、超伝導の舞台であるCuO_2面の電子状態の変化は、CuO_2面が関与するフォノンの強度に強く反映することを実証した。すなわち、CuO_2面からのラマン散乱強度はCuO_2面に存在するキャリア濃度に反比例することを実験的に見いだし、この現象をスクリーニング・モデルにより初めて説明した。CuO_2面におけるフォノンモードの強度とホール量との間の関係は、銅系酸化物高温超伝導体のほとんどすべてに適用でき、ラマン散乱による銅系酸化物高温超伝導体のド-ピング研究に新局面を導いた。このような銅系酸化物高温超伝導体のラマン散乱測定による一連の研究を通じて、酸素欠損のあるイットリウム系超伝導体において可視光励起が引き金となって「光誘起相転移」現象が室温で生じるという画期的な発見もなされた。この発見は、可視光・室温という条件下において、無機酸化物では初めての現象であり、その物質、現象自体としての新規性のみならず、無機酸化物の多様な特異物生を機能として盛り込んだ新しい可視光応答の光素子の研究・開発につながるものと考えられる。
|