科学研究費補助金により、本年度計画された研究内容が予定通り推進され、多くの成果が得られた。その研究実績の内容を以下に示す。 RHEED(反射高速電子回折)強度のロッキング曲線は表面の原子構造を解析するために用いられている。しかしながら従来のRHEEDは非弾性散乱電子も多く含まれた回折電子強度をそのまま解析に用いていた。本研究では、開発したエンルギーフィルターを用いて非弾性散乱成分を除去した回折電子強度の測定を行い、従来の測定結果との相違点を明らかにした。また、弾性散乱成分のみを抽出したロッキング曲線を解析するため、回折強度を求める動力学的計算に表面プラズモンによる吸収効果を取り入れ、Si(111)√3x√3-Al表面に対する実験結果と比較検討を行い、その吸収のおよぶ範囲を調べた。 Si(111)7x7表面のRHEEDパターンを構成する回折スポット、菊池線、バックグランド等のエネルギー損失スペクトルを入射条件を変えて測定し、それらのエンルギー損失機構を明らかにした。低角脱出の回折スポットは表面プラズモン損失が支配的であるが、高角脱出の回折スポットには、バルクプラズモン損失成分が含まれていることがわかった。菊池線についてはバルクプラズモン損失が強く、また表面プラズモン損失とのカップリングも認められた。 エネルギーフィルター型RHEEDは、バックグランド強度を低減でき、菊池線も除去できるため、ディヒューズパターンの観察には有効である。Si(001)2x1表面においてc(4x2)構造の無秩序化によるストリーク状のディヒューズパターンを室温において明瞭に観察できた。特に微傾斜によって現れるディヒューズパターンを明瞭に捕らえることができ、その解析結果から平均テラス(ステップ間距離)の長さを見積もることができた。
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