我々は、既に水素で終端されたシリコン表面上では金属薄膜のエピタキシ-が大きく影響される現象を見出し報告してきたが、本科学研究費補助金の助成によって、この現象のメカニズムを解明し、しかも積極的に用いることによって表面偏析を制御する可能性を見出すことを目的とし、STMとISSを併用することによって、原子スケールのミクロな尺度での観察を進めた。その結果、以下のような新しい事実が得られた。 (1)水素終端シリコン表面にAg薄膜を形成する場合、直接シリコン表面上に成長させた場合と異なったクラスター構造をとることが解った。この分布を精密に調べたところ、ほぼ一様でしかもサイズが30nm程度であった。このクラスターは温度によってサイズを変えるものの、形状は変化せず、偏析が水素で修飾されていることが解った。 (2)Pb薄膜は水素終端シリコン表面において、直接シリコン表面上に成長させた場合と異なったクラスター構造をとり、このことは直接シリコン表面上にPb薄膜を成長させ、後で水素吸着させた場合と同様な結果となり、水素が表面偏析を制御していることが解った。 Pb薄膜形成の際、2つの異なる√3-Pb薄膜において、水素を吸着した際、表面偏析したPbクラスターの構造のみならず露出したシリコン表面に特徴的な構造が見られ、しかもそれは2つの薄膜で大変よく似ていることを見出した。Pb薄膜においては、Pbの原子数の違いが水素終端効果に影響を及ぼさず、Agの金属薄膜の場合と好対照をなした。 これらの結果は、水素を媒介とした表面偏析制御を実現する鍵となるものである。
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