研究概要 |
高散乱体を含む濁り液媒質からのレーザー動作のメカニズムを,物理的根源的に理解するには,高透明球形媒質において本質的に出現する球共振のモードと,不透明高散乱媒質に発現する多重散乱のモード(従来未検討な事項なので仮称する)の詳細な比較検討が最重要であるとの観点から検討を勧め,以下のような結果を得ている。 高散乱媒質(PMMAアクリル樹脂個体散乱体,人工血液として医用に汎用のイントラリピッドソフト散乱体を現在までに使用)を活性液滴中に混入することにより,1.既存の色素(ロ-ダミン,アクリジンなど)を用い,もともとレーザー発振の不可能な濃度(極端に高あるいは低濃度)溶液による微小液滴球からのレーザー発振の実現(Opt.Lett.1995,LEEE J.QuantumElectron.1996)。2.生体から直接抽出した色素(現在までに,緑色大根葉,淡水藻のアオミドロを使用)溶液からの,新しいレーザーの実現(レーザー学会研究会,Electron.Lett.に報告)。 1.,2.ともに高散乱体の混入時には明確なしきい値を持ってレーザー発振(Amplified Spontaneous Emission;ASEとは異なることの証明)し,また出力強度を数倍〜1桁程度も増強できる顕著な特性を有している。いずれの場合も,散乱体の混入がなければ検出限界程度の発光しか得られず,本技術が低発光媒質からの高感度な光検出に応用可能なことを強く示唆,支持するものである。このような新しい成果は,電気関係学会および応用物理学会等で報告するとともに,ポーランド(招待講演)および独国におけるCLEO国際会議にて公表した。また1.については,高透明色素溶液から順次混入散乱体量を増加した場合のレーザー特性について,入-出力強度特性,発光分布特性(CCDカメラによる),スペクトル特性(OMAによる)を詳細に検討し(LEEE J.Quantum Electron.1996),特にスペクトル特性に関しては,当初予期していたように,高透明球共振モードによるレーザー発振が初めに現れ,混入散乱体量の増加に伴ってこのモードが次第に消失,多重散乱のモードへと移行していく事実を実験的に確認している。高散乱媒質中における誘導放出のダイナミクスを本質的に解明するための,先駆的な基礎的知見の一つであると確信している。
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