研究概要 |
LiNbO_3結晶におけるフォノンポラリトンを用いた光パラメトリック発振によるテラヘルツ波光源の実現を目的とし,平成8年度はテラヘルツ波発生の基礎特性の解明とそのデバイス化の基礎検討を行った。 1)テラヘルツ波発生の基礎特性の解明 テラヘルツ波発生実験として,長さ50mmのLiNbO_3結晶(両面は反射防止膜)をストークス光に対して99%以上の反射率を有する2枚のミラーの間に置き,Nd:YAGレーザ(波長1.064μm)で励起した結果しきい値25mJでストークス光とテラヘルツ波の発生を確認した。Nd:YAGレーザ光とストークス光の角度を約1度変化させるとテラヘルツ電磁波の波長を180〜270μm(1.1〜1.7THz)の範囲で連続的に変化させることが可能であり,テラヘルツ波の出力は4.2Kに冷却したSiボロメータで測定した結果,34.5mJのNd:YAGレーザー励起時に最大3mWが得られた。また,フォノンポラリトンを介した光パラメトリック発振の温度特性を明らかにするために,クライオ冷却装置を用いてLiNbO_3結晶を18〜291Kの範囲を変化させ,ストークス光出力としきい値の温度変化を測定した。18Kでのストークス光出力は室温(291K)のほぼ13倍増加し,しきい値はほぼ16%低下することが明らかになった。これらの結果は結晶の冷却により格子振動モード(A_1 symmetry soft mode)のバンド幅が減少し,ラマンゲインが増大したことによるものと考えられる。 2)テラヘルツ波発生デバイスの設計・作製 本研究では,グレーティングをLiNbO_3結晶の表面に形成する新たな構造を採用した結果,結晶中で発生したテラヘルツてら電磁波をグレーティングにより回折させることにより効率よく結晶外に取り出すことができることを見出した。実験では長さ50mm,厚み3.5mm,幅10mmのLiNbO_3結晶のY面に周期125μm,深さ40〜100μm,長さ10mmのグレーティングを形成した結果,グレーティング面から74度の方向にテラヘルツ電磁波がほぼ平行ビーム状態で出射することを確認した。テラヘルツ電磁波の出射ビームは直径約7mmであり,ホワイトポリエチレンのレンズで容易に集光できるなど光のように振る舞う。これらの実験結果は,LiNbO_3の屈折率分散に基づく位相整合条件から求めた理論値とほぼ一致しており,本方法は,グレーティングを用いない従来の方法に比べ1000倍以上の高い効率でテラヘルツ波の発生が可能であることを実験的に確認した。
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