平成9年度は、前年度につづき、面発光半導体レーザの発振偏光の双安定スイッチングに関する研究を行ない、以下の3点について成果を得た。 (1)面発光半導体レーザの偏光双安定性を用いたフリップ・フラップ動作の解析 面発光半導体レーザに偏光が互いに直交する光パルス列を注入することにより実現される、フリップ・フロップ動作のより一層の高速化を実現するため、レート方程式を用いて詳細な解析を行った。その結果、フリップ・フロップ動作の特性は、トリガ光の波長と発振波長の差に大きく依存し、波長差が小さい場合には注入同期により、トリガ光と同一の波長で極めて高速(>200Gbit/s)のフリップ・フロップ動作が実現できるることがわかった。 (2)全光型DEMUX動作の解析 面発光半導体レーザの偏光双安定特性を用いて、時間多重された光信号から全光型で超高速の多重分離(DEMUX)回路が構成できる。信号光とゲート光は同一の偏光(0°)をもち、2つの光が同時に入ったときに、双安定素子のAND動作により、面発光の出力が0°に設定される。面発光の偏光は双安定素子のメモリ作用により、直交する偏光(90°)をもつリセット光が注入されるまで、0°に保持される。従って、面発光レーザの出力の0°偏光成分を信号出力とすれば、ビット長の変換機能をもつ、DEMUX動作が実現される。従来の方法では困難であった100Gbit/sの信号から数Gbit/sのDEMUXが可能になった。 (3)利得飽和の理論的検討 半導体レーザでビッチフォーク型偏光双安定の生ずる原因は、半導体エ-ザのバンド内緩和効果から生ずる利得飽和効果によると考えられる。InGaAsP/InPレーザのパラメーターを用い、密度行列の運動方程式を摂動で解くことにより飽和係数を得た。計算された各飽和係数は偏光の異なる3つの光(2つの偏光が直交する発振光と1つのトリガ光)の波長が近ければ強結合条件が成りたち、双安定動作が期待できることがわかった。
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