研究概要 |
現状の光回路は光路長が温度に依存して光の位相を温度1°C当りで数波長分も変動させるので,光の位相まで制御した光波回路の実現を困難にしている.この問題を解決するには,光導波路の光路長温度係数を零にしたアサーマル光導波路を用いて,光回路を構成する必要がある.そこで本研究では,報告者らが考案して可視波長帯で実現したアサーマル光導波路を光通信用の赤外波長帯で実現し,さらにこれを用いた温度無依存狭帯域波長フィルタの実現を目的とした. 昨年度は波長1.3μmでのアサーマル光導波路を実現したが,コアにC7059ガラスを用いたために高屈折率差導波路になり,単一モード条件によってコア厚が薄く制限され,ファイバとの結合損失が大きくなるという問題があった.またリッジ装荷型構造を用いたために光の横閉じ込めが弱く,曲げ損失等が増大する問題もあった.そこで本年度の研究では,石英系光導波路を用いた矩形埋め込み型アサーマル光導波路を波長1.55μm帯において開発し,それを用いた温度無依存波長フィルタの実証を目指した. まず,波長1.55μmにおける各導波路材料の屈折率,およびその温度係数の測定を行い,それらのデータをもとにスカラー有限要素法により石英系アサーマル光導波路の設計を行い,その結果を用いて開放型リング共振器の設計,製作を行った.なお,ポリマー材料については,その屈折率を制御して矩形埋め込み型導波路に適用可能にするために,高屈折率であるMMAと低屈折率であるTFMAを共重合させたポリマーを用いた. そして製作した開放型リング共振器の波長特性を測定したところ理論値通りの特性が得られ,その中心波長の温度依存性を測定した結果,4×10^<-4>nm/K以下にまで低減できた. この結果,フィルタ中心波長の温度依存性を,従来型石英系波長フィルタの約3%,半導体系波長フィルタの約0.3%にまで低減することに成功した.
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