本研究では、SUS304に融解や組織変化を起こさない条件でレーザーを照射することによって、圧縮残留応力を生成いた上での、疲労強度向上の可能性を検討した。その結果、条件が満足すれば疲労強度を高めることが可能であることを明らかにした。金属表面にレーザー照射を行った場合、疲労強度に影響を与える大きな因子としては、熱応力によって生ずる残留応力と表面上に形成される凹凸形状が挙げられる。残留応力は、組成変化を生じない温度条件の下で熱応力による塑性変形のみによって発生することを想定した。まず、非線形非定常熱弾塑性有限要素解析による計算により、残留応力分布は試験片形状に依存することが分かった。表面の凹凸は、レーザー照射部に発生する酸化膜によってできていることを電子顕微鏡観察から明らかにした。その場合き裂が多数発生し、疲労強度は低下することが分かった。丸棒の場合、レーザー照射によって表面に圧縮残留応力が発生し、疲労強度的に有利になる。しかし、圧縮残留応力と表面凹凸の両者が発生した場合には、疲労強度が弱くなった。もし、圧縮残留応力が生じていて、しかも表面に凹凸がない状態を実現できれば疲労強度が向上するはずである。切欠き付丸棒の切欠き横にレーザーを照射した場合には、この条件を満足することを有限要素性によって明らかにした。実験的な検証として応力集中部である切り欠き底に圧縮残留応力を発生させて疲労強度を求め、レーザー未照射材のそれとくらべたところ疲労強度が向上することが明らかとなった。レーザー処理はレーザー光の届く所であればどこでもよく、大気中でも行なえるので、使い方の自由度は非常に大きい。実際の機械部品に対して、疲労強度を強化したい部分だけにレーザー照射して処理を行なうことも可能であろう。レーザー処理は、現在開発中のものであり、今後の研究が進めば、実用価値を増していくと思われる。
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