研究概要 |
本研究の目的は,EHLグリース膜の形成機構を解明することである.その目的達成のために,組成は同じであるが粘度の相違する3種類の基油に,芳香族系,脂環族系ならびに脂肪族系の増ちょう剤をそれぞれ等量添加してちょう度をほぼ同じ程度にしたジウレアグリース9種と同一基油で作製された3種類のグリースをそれぞれ転がり軸受に封入運転することによってグリース繊維構造を破壊したものを作製し,鋼球とガラス円板で構成される点接触純転がりならびに滑りを伴った転がり運動下でグリース油膜の直接観察を平滑鋼球,直交溝付与鋼球,直交突起付与鋼球を用いて実施した.昨年度の成果以外の主な成果は以下のようにまとめられる. 1.芳香族系グリースの場合には増ちょう剤繊維は基油に浮遊しており,また脂肪族系グリースの場合には基油が増ちょう剤繊維構造に捕捉されているような構造,脂環族系グリースは両者の中間的構造を持つと予測され,この構造がグリースEHL膜形成に主たる影響を与えることが判明した.2.すなわち,脂肪族系グリースでは軌道面から排除されたグリースは軌道面に帰還し難く,油量不足も発生しやすく,繊維構造からしみ出た基油により潤滑される可能性が高い.そこで,膜厚は基油粘度によって主として支配され,増ちょう剤の接触面への付着可能性も低くなる.3.芳香族系グリースの増ちょう剤は接触面への導入が容易であり,接触面へ付着し付着層を形成しやすい.しかし,滑りを伴う場合には,直交溝に沿う側方漏れの影響を受け,油膜厚さの減少を起こす.一方,直交突起の場合は滑りを伴っても厚い油膜を維持する.4.脂環族系グリースは両者の特徴を合わせ持ち,側方漏れの影響も受け難く,油膜減少も発生し難い.5.すなわち,平均膜厚は脂環族系グリースが最も厚く,次いで芳香族系グリースとなり,脂肪族系グリースが最も薄い.
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