研究概要 |
本年度は、HPC溶液の等方相および液晶相溶液から種々の条件でコーティング膜を成形し、低分子液晶(5CB)との相互作用を液滴法により調べた。さらに原子間力顕微鏡(AFM)により膜の表面形状を測定し、相互作用との関連を検討した。 まず高速ビデオにより、コーティング時における偏光下での複屈折挙動の観察を試みた。リビング発生に関する観察はできたが、分子配向に関する情報を含む複屈折に関しては、膜が薄いこともあって十分な結果は得られなかった。つぎに、膜厚(10μm,40μm)とコーティング速度(0.02,0.5,1.0,5.0mm/s)を変えて、種々の膜を成形した。用いたHPC溶液は、10wt%,20wt%,30wt%,50wt%水溶液と20wt%,30wt%,40wt%,50wt%のエタノール溶液である。5CBの液滴を膜表面に滴下し、偏光顕微鏡で観察したところ、膜厚が小さく、コーティング速度が大きいほど液滴に顕著なディスクリネーションが見られ、膜表面で5CBが一方向に配向していることがわかった。逆に、溶液濃度が低く、膜厚が大きく、コーティング速度が小さいときには、膜表面で5CBはランダム配向している。特にエタノール溶液では、この傾向がはっきりと見られた。このような結果を踏まえて、膜の表面構造と5CB分子の配向との関連を調べるために、AFMによる表面形状の測定を行った。その結果、50wt%水溶液の膜表面にはバンドテクスチャーに対応した顕著な凹凸が見られたが、その他の濃度の膜には5CBの配向と関連するような特徴ある構造は見られなかった。したがって、このことにより我々は、流動による分子配向が膜のごく表面近傍で乾燥により固定化された結果、HPC分子と5CB分子との分子間相互作用により配向したものと結論づけた。今後、この結果を応用すれば、新たな配向膜を開発できる可能性がある。
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