熱輸送デバイスHTDについては、半導体素子の冷却などを背景としてマイクロ化やフレキシブル化などの要望が存在する。HTDについては、液体還流を重力により行うサーモサイフォンや毛管力により行うヒートパイプなどの相変化型デバイスが開発され実用化されているが、これらにより上述の要請に応えるには困難を伴う。そこで、本研究では、管内の液体の振動運動による拡散促進効果に基づき、液体の還流機構を要せず構造が単純である振動制御型HTD(通称、ドリームパイプ)に着目してきた。昨年度は、加振機を有する外部駆動型HTDについて、懸念された振動流の乱流遷移が熱輸送限界をもたらさないことを示し、本HTDには熱輸送限界が存在しない可能性を示した。本年度は、本HTDの欠点となり得る加振機を除去するため、管を加熱部と冷却部間を蛇行する閉ループとし、液体封入率を1未満として、加熱部における発泡と冷却部における凝縮とを利用することにより液柱振動の自励振動を発生させることを目指した蛇行閉ループ式熱輸送管(MCL-HTD)について検討した。具体的検討は、10ターンのMCL-HTDについて水を作動液体として行った。得られた結果は、以下のようにまとめられる。(1)MCL-HTDの作動上限管径を解析的に示した。(2)液体が半ターンを占めろ封入率(10ターンの場合は95%)において、気体プラグがターン間を伝播する現象を発見した。本伝播現象は、ターン数を少なくすることにより液柱自励振動の発生へとつながる(予備実験により自励振動の発生を確認した)。(2)熱輸送特性に対する液体封入率、加熱部温度、傾斜角などの影響について広範囲に実験を行い、MCL-HTDがかなり高い熱輸送特性を有することを示した。(3)気体プラグ伝播現象に関する数値計算を行い、熱輸送機構として液体の顕熱輸送が重要であることを明らかにした。
|