研究概要 |
1988年に、我々が世界で初めて提案した大強度パルスイオンビーム蒸着(IBE)法を用いて、ペロブスカイト型結晶構造を持つ誘電体材料であるチタン酸バリウム・ストロンチウム(Ba_x,Sr_<1-x>)TiO_3(以下、BSTと省略。但し、xは組成比で、x=0はチタン酸ストロンチウム(SrTiO_3:以下、STOと省略)、x=1はチタン酸バリウム(BaTiO_3:以下、BTOと省略)を表わす。)の薄膜生成実験と特性評価を行い、下記の成果を得た。 1)従来の前面堆積(FS/IBE)法の他に、新たに背面堆積(BS/IBE)法を提案し、これを用いて成膜実験を行った。その結果、真空中で,基板加熱無しに、BSTの多結晶薄膜の作製に,世界で初めて成功した。 2)BS/IBE法を用いると、薄膜の表面が極めて平滑であり(Ra(平均粗さ)〜2.5nm)、FS/IBE法や他の成膜法で問題となっていたドロップレット等の付着物が大幅に低減し、電気的特性も大幅に向上する。 3)BS/IBE法による成膜速度は、数十nm/ショットであり、FS/IBE法に比べると1桁小さいが、他の成膜法(rfスパッタリング法、パルスレーザー堆積法等)に比較すると、約4桁以上も速い。 BS/IBE法で作製されたBST薄膜の組成比は、ターゲットのそれに一致し、ターゲットと薄膜間の組成のズレは極めて少ない。 5)薄膜の比誘電率はBa組成比(x),及び比誘電率測定に用いるソ-ヤ・タワー回路の周波数を変えると変化し、x=0.5〜0.7で最大値を持つ。 6)Baの組成比(x)を変えると、x=0の強誘電体のSTOからBSTを経て、x=1の常誘電体であるBTOまで、比較的簡単に、選択的に薄膜を作製することが可能である。 7)基板加熱や熱処理等を行わずに得られたBST薄膜は、x=0〜1の範囲で、立方晶ペロブスカイト型結晶構造であり、常誘電体である。
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