本年度は水素プラズマ、酸素プラズマ、アニール処理によりダイヤモンド表面の改質を行い、電子放出特性を測定して次のような結果を得た。 (1)シリコン基板上にホットフィラメントCVD法によりリン添加多結晶ダイヤモンド薄膜を成長した。ダイヤモンド薄膜の表面においては水素原子の脱離による電子放出開始電界強度の増加、水素原子の供給による電界強度の回復が見とめられた。一方、カソード金属と接合するダイヤモンド裏面で水素原子の脱離を行った場合、表面と同条件の水素プラズマ処理では電界強度の回復は起こらず、長時間の水素プラズマ処理が必要であることが解った。この原因が裏面付近に高密度に分布する結晶粒界によるものであることを明らかにした。 (2)リン添加ダイヤモンド薄膜からの電子放出機構を解明するため電子放出特性の温度依存性を測定し、その解析を行った。温度上昇に伴い、電子放出電界強度が著しく低下する結果が得られた。また無添加ダイヤモンド薄膜において電界強度に温度依存性が現れないことを見出した。これはドナー不純物としてのリン原子の振る舞いを反映しており、電子放出特性がカソードからダイヤモンドへの内部放出特性に支配されていることを熱電界電子放出モデルを用いて明らかにした。 (3)リン添加ホモエピタキシャルダイヤモンド薄膜を作製し、酸素プラズマ処理によって水素原子を脱離させた後、仕事関数の異なる金属を用いてカソード電極を形成した。カソードからダイヤモンドへの電子のトンネル注入を示唆する電子放出特性が得られた。
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