本研究は平成8年度と9年度の2年間にわたるものであり、本年度は以下の課題について検討した。 1.AlGaAs/In_xGa_<1-x>As/AlGaAs歪量子井戸の設計:しきい電流密度を少なくするためには、Inの組成比xを欠陥の入らない臨界膜厚内で歪による価電子帯の状態密度の減少による発振しきい値の低下を行うことが必要であり、理論的に検討した結果、本研究ではx=0.2、InGaAs層の厚さとして7.9mmを設計値として用いることにした。 2.歪量子井戸の成長:水冷式分子線エピタキシ-(MBE)装置の立ち上げを行い、GaAs基板上にAlGaAs/GaAs/AlGaAsの成長を行った。今回の研究費で導入したRHEEDパターン解析装置により、1原子層ごとの成長を確認し、成長速度を正確に求めた。厚さが5nmおよび8nmのGaAs単一量子井戸を作製し2Kでのプォトルミネッセンスを観測し、波長は理論値と一致した。水冷式MBEで良質な量子井戸が作製された例は未だ報告されていない。 3.多重反射膜の作成:面発光レーザ共振器として各層の厚さが1/4波長で24対のAlAs/GaAs多重反射膜をコンピュータ制御により作製し、SEM観察で成長できることを確認した。 4.ディスオーダ化の基礎実験:ZnとSiの拡散について、電子ビーム蒸着で作製したZnO/SiO_2膜とSi/SiO_2膜を用いて、GaAsへ固層拡散ができるようになった。拡散に今回の研究費で導入した赤外加熱炉を用いた。前者の場合、700℃で0.6μm/h^<1/2>、後者の場合は850℃で0.3μm/h^<1/2>の結果が得られた。 来年度はGaAs、AlGaAs、InGaAsへのn型およびp型不純物のド-ピング、GaAs/InGaAs/GaAs歪量子井戸の作製、ZnおよびSiの拡散によるディスオーダ化によりTJS構造レーザの作製に適用する。また、発光の取り出し面には誘導体多層反射膜を検討する。なお、本年度の基礎実験で得られた成果の一部を論文にまとめ、投稿予定である。
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