本研究では、マルチメディア無線通信ネットワークの高速化、高信頼化並びにヒューマンインターフェイスの向上に必要な基盤技術として、マルチメディア情報と移動無線通信路に適した情報圧縮、誤り制御、フィルタリングなどの物理レイヤにおける空間・時間領域の信号処理と、有線通信ネットワークとの整合性や移動無線通信路に固有な特性を考慮したアクセス制御などのネットワークレイヤにおけるプロトコルを、適応ディジタル信号処理、情報理論ネットワーク理論の観点から総合的に研究することを目的とした。また、これと同時に、実際のFPLMTS、高速無線LANなどにおけるマルチメディア無線通信の実現における問題を具体的に解決する実用技術を考案することも目的とした。 第1に物理レイヤにおいて、マルチメディア情報の各メディア固有の性質や要求に応じ且つあらゆるメディアに共通に適用できるユニバーサル情報圧縮、無線通信路固有のマルチパス・フェージングや干渉妨害に強いアダプティブアレーアンテナ・適応ディジタルフィルタ・符号器復号器に基づく空間・時間領域の信号処理に関する研究を行なった。具体的には、(1)マルチメディア情報源の数学的なモデル化とメディア識別法に基づく算術符号化・LZW符号化の改良によるユニバーサル圧縮方式の考案と性能解析、(2)アダプティブアレーアンテナを用いた空間・時間領域の最適受信機と適応制御アルゴリズムの導出、(3)アダプティブアレーアンテナを用いた空間・時間領域の通信路符号化の考案と最適化、(4)マルチメディアCDMA無線通信におけるトラヒック変動の測定法とメディアに応じた処理利得や送信電力の制御法の考案、(5)CDMAシステム内で生じる他局間干渉を低減し周波数利用効率を改善するための拡散符号の構成、時間・空間領域における干渉除去方式の考案と性能解析、などの研究を行なった。 第2にネットワークレイヤにおいて、音声、画像、データなどのマルチメディアの異なる伝送速度、通信品質などの要求条件を満たし、無線通信路固有のマルチパス・フェージングなどによるパケット廃棄、処理遅延などの問題と有線通信ネットワークとのトランスペアレンシを保ったアクセス制御、ルーティングなどのプロトコルに関する研究を行なった。具体的には、(1)マルチメディア無線CDMAネットワークのための送信電力・パケット長・処理利得の適応制御方式の考案、性能解析と最適化、(2)TDMA系のCSMA/CD、ALOHANETなどとCDMA系のDS/CDMAやマルチキャリアFH/CDMAなどのハイブリッド方式の体系化と総合的な性能比較、などの研究を行なった。
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