本研究課題においては、物理的モデリングが困難な非線形未知システムを診断対象システムとする場合に対して、デル化誤差にロバストなモデルベース故障診断システムの構築を目的として、1)表現の柔軟性と線形構造性を兼備した診断用モデル構成とその同定法、2)診断用モデルの不確実さ(モデル化誤差)の評価法、3)モデル化誤差にロバストな故障検出法、及び、4)知識情報の併用による故障識別同定法、に関する研究に取り組み以下の研究成果を得た。1)については、線形ARMAXモデル構造の枠内で多様な非線形システムを表現しうるモデルとして、その係数パラメータの中に対象システムの非線形特性を非線形ノンパラメトリックモデリングを通して埋め込ん準ARMAXモデルを考案しその同定法を確立した。またこの準ARMAXが線形構造をもつことから、多様な非線形システムに対してSTR(Self-Tuning Regulator)による適応制御則を線形制御理論の枠内で合成できることを明らかにし、本モデルが診断用モデルのみならず適応制御による故障対応用モデルとしても有効であることを確認した。2)については、非線形システムの線形近似モデル化誤差を準ARMAXモデルの非線形部により直接的に評価する方法を考案した。3)に対しては、故障検出指標として用いるカルバック識別情報量(KDI)とモデル化誤差との関係を解析し、モデル化誤差にロバストな閾値判定による故障検出法を提案した。また、準ARMAXモデルが線形ARMAXモデルの非線形重み付き和としてのマルチモデル構造性を持つことを利用して、マルチモデルに基づく非線形システムの故障検出法を考案した。更に、故障検出指標KDIをマルチモデルの重み係数と関連付けて評価することにより、故障検出のロバスト化を実現した。また、KDIの確率特性を正常運転時のシステム同定結果から学習することにより、閾値判定による故障検出のFalseAlarm Rateを所望の有為水準に定める閾値設定法を確立した。最後に、4)の故障識別同定法については、準ARMAXモデルのパラメータが診断対象システムの物理的構造に関する情報を反映し得ないことから、未だ有効な手法の開発には至らなかった。
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