研究概要 |
海成有明粘土層に認められる塩分溶脱現象の機構や,その現象と地盤特性との間に認められる特異な関係について明らかにするために,堆積環境の観点から酸化還元電位の測定や含有貝化石の生息環境の分析を行い,堆積当時の環境を復元した.その結果,人為的な地下水揚水にともなう地下水流動が塩分溶脱現象を生じせしめていること,その結果海水の作用で高い間隙比状態で堆積していた粘土が高鋭敏な性質を示すに至ったこと,つまり一部地域の海成粘土が示す高鋭敏性,高圧縮性は過去数10年間の地下水揚水の影響にさらされた結果であること,などのことが考えられるようになってきた.本研究では,以上の仮説について4つの課題を設けることで立証を試みた.1.有明粘土層の堆積環境とその鋭敏性,2.佐賀平野における更新統をも含んだ地盤内の地下水位変動,3.天然トレーサーによる佐賀平野の地下水循環,4.間隙径分布の測定に基づく海成粘土の圧縮特性,の順で課題内容をまとめ,最後に各課題で得られた成果について総括した. 本研究で得られた主要な知見は次のとおりである.塩分濃度の観点から海成有明粘土層は通常層と塩分溶脱された層に,非海成蓮池層は通常層と塩分集積した層にそれぞれ分類して検討すると,地盤特性の理解がより明確なものになる.沖積粘土層内の間隙水圧分布は,地表面に近い領域ではほとんど変動していないが,それ以深では深くなるに従って水圧変動の影響を受けている.地下水の塩水化については,一般に有明海沿岸部で沖積粘土層に近い浅い層で進行しているが,白石地区では有明海沿岸部に加えて感潮河川である六角川流域でその傾向が認められる.感潮河川からの塩分の補給による塩分溶脱現象の加速による塩分の垂直移動,もしくは化石水の存在などが考えられ,今後の詳細な調査が必要である.高位構造を有する有明粘土は集合体間に働くセメンテーションの影響が大きい.
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