建材から放たれる揮発性有機化合物やホルムアルデヒドの発生量は、建材の設置直後が最も多く、以後次第に減少していくため、米国などでは建築物竣工直後、入居前の1週間ほど通常より多量の換気を行い、入居時の不快な空気質を向上させる居住前換気がなされている。本研究では、建材から発生される揮発性有機化合物(VOCs)やホルムアルデヒドの量を時系列に測定することにより、居住前換気の有効性を検討することを目的とした。 まず、実際に居住されている鹿児島市の住宅においてホルムアルデヒド濃度、VOCs濃度の実測を行った。AHMT法によるホルムアルデヒド濃度測定では、WHOの基準である0.08ppmを越える濃度が得られた箇所は無かった。しかし、GC/FID法によるトルエン等価のTVOC濃度は、全ての住戸においてWHOの目標値である0.3mg/m^3を越えていた。 居住前換気の有効性を定量的に把握するには、建材から放たれる化学物質の発生量を知ることが必要である。そこで、建材からのVOCs、ホルムアルデヒドの発生量を時系列に把握し、発生過程を把握しモデル化するために、温湿度、換気量の制御できるスモールチャンバーに、供試材を入れ、発生される化学物質について濃度測定を時系列に行った。その結果、以下のような知見が得られた。 1) ポリウレタン床仕上げ材から放たれる5つのVOCの発生過程には、Chang and Guoの二重指数関数モデルを用いた回帰によるあてはめが優れていた。 2) ラワン合板から発生されるホルムアルデヒドの時系列発生量は、「定量発生+二重指数減衰モデル」によるモデル化が適切と考えられた。ホルムアルデヒド発生という観点からの、ラワン合板の材齢を表す指標として、自由ホルムアルデヒドの発生総量を用いる手法を提案した。本実験においては、空気温度の高い実験パターンの方が、自由ホルムアルデヒドの発生が促進されることがわかった。 換気量の増大や、温度の上昇よって、汚染物質の発生が促進され、早いうちに、建材内の含有量が減少するのであれば、居住前換気やベイクアウトは有効である。しかし、換気量の増大によって、発生量が増加するような発生機構でないのであれば、居住前換気の効果は、それを行っている期間の濃度低減という効果が主となる。 また、居住前換気やベイクアウトの効果を定量的に評価するためには、発生モデルにおいて用いる、初期発生量や減衰定数、定量発生量などのパラメーターを実験によって求めることが必要となる。今後、それぞれの建材からのVOC、ホルムアルデヒド発生モデルに対して、これらのパラメーターを求める研究が望まれる。
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