現代の日本住居が次第に閉鎖化し生活が個別化して共同性が薄れつつある状況を、農村集落および都市集合住宅の調査を通じて明らかにし、住居の開放性を回復し生活の共同性を高める方策について考察した。 農村部については、福井県嶺北地方の4集落を対象として実態調査を行なった。まず、この地方の伝統的住居の型を示した上で、これが近年、次第に変容しつつある状況を概観した。次いで、各集落がそれぞれの地域の特殊条件に従いつつ、それぞれ開放的な雰囲気を保っている状況を明らかにし、近年建設される住居においても、住居は敷池の近傍空間と一体になって存在すべきであることを論じた。 集合住宅については、集合のあり方に関して積極的な提案の見られる8事例について観察調査し、また9人の計画家・建築家にヒアリングを行ないこれをもとに、住居の開放化と生活の共同性を実現するための空間的条件について考察し、以下の諸条件を指摘した。即ち、 (1)住み手の生活領域の連続性 (2)戸外への表出の場の確保 (3)戸内の日常生活を共用空間に向ける (4)接地感の重視 (5)共用空間の適度なスケールと変化 (6)小集団の形成 さらに阪神・淡路大震災後の復興住宅が、安全・防災と緊急大量建設のみを指向して画一的な型によって建設され生活の共同性を喪失し、周辺の街なみとも遊離している状況を指摘した上、住戸の開放性を志向した二三の好ましい事例と、協同的生活を組み込んだコレクティブハウジングの事例を紹介した。 最後に、住居の開放化・共同化の動向について展望し、人間的な住まいについての理解のもとに総合的にデザインすることの重要性について論じた。
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