研究年度当初、前年度科学研究費補助金による"画帖の復原・復刻に関する調査研究"の成果を論文にまとめ、大阪芸術大学紀要「芸術」19号に投稿、11月に発刊を見た。画帖を個別図柄の段階におろして分別・再編したもので、各図柄を赤線による2ローマ吋格子に乗せて主題ごとに分別し、さらに図形要素としての円弧構成の一部を青色で示した。これにより画帖の主題別内容が一目瞭然となり、各図柄相互の寸法と図形対応が明確に把握できることとなった。ここにウィトルウィウス建築書において、所要図面がすべて失われたと対蹠的に、画帖は文章のない中世の技術提要的性格を如実に示すものとなった。森田慶一による建築書註釈の再検と合わせ、テオフィルス著「技術提要」(森洋訳)の発刊を見てこれとの照合を試みた結果、いっそうその感を深くし得た。 研究関連図書多数を購入したが、中でもP.ウイルソンによる「建築論史」は、ウィトルウィウスから現代に至る建築思潮の流れを論考した好著で、一部にヴィラール画帖に関する考察も含まれ大いに有効であり、その精読を進めている。その他、建築学会図書室ならびに熊本大学西洋建築研究室資料室で、参考図面コピーの参照、コピー収集を果たした。 本研究に平行して、ヴィラール画帖のローマ吋格子構成と幾何図形理念を都市に及ぼして、中世の新都市(バスチッド)の平面解析を試みた結果、200ローマ尺格子による格子構成原理が見出されるに至り、ウィトルウィウスの測量技術的・都市計画家的職能が、ヴィラールら中世の建築家に引き継がれと推定する傍証を得ることになった。 以上の成果の一部を学会発表に向けて準備できることとなった。
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