L.B.アルベルティの“建築論"とヴィラールの画帖との比較対照作業ではやはり内容の格差が大きく、事項の逐一検討は困難を伴ったが、全体的な建築家の職能の見地からは方向づけができた。ヴィラールをL.ダ・ヴィンチの中世的先行と見ることについては、M.ブリヨンらの著作から多くの示唆を得た。 別途、ローマ尺のマクロ的用法に関する研究を昨年度の中世新都市の場合に引き続き、古典古代のギリシア・ローマの諸都市遺構に拡げて考察を進めた。その結果ここでも矩尺を含むローマ基準尺度単位による格子状街区平面の計画設定が見込まれるに至った。特にミレトス遺構に推定される旧・新都市街区での使用尺度と格子系の変換という事実は興味深いものといえた。 かねてよりヴィラール画帖の書誌学的意義についても目を配り、中世の写本・造本の技術に関連する資料の収集を心掛けて来た。犢皮祈祷書零葉を入手、罫線や彩色・筆写等、その細密画技法の実態に触れることを得た。スペインで発刊の各種零葉集復刻版により紙面レイアウトの比較考察を行った結果、ローマ吋による割りつけが明らかにになった。また小品ながらイタリア15世紀末の構築技術の手描本復刻版により、当時の機械装置類の描画法をヴィラール画帖のものと比較し得た。ダ・ヴィンチ画稿の背景を知ることでも有効である。 熊本大学建築史料研究室に古代ギリシア建築史専攻の伊藤重剛助教授を訪問、同助教授からレプティス・マグナ遺構でのローマ尺派生尺についての藤本の考察に関心が示された。 東京丸善で開催の中世写本展を視察、原本品の実見を果たし担当者の説明を得た。 以上の成果を、日本建築学会近畿支部研究報告集並びに大会講演での発表に向けて準備を進めている。
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