研究概要 |
本年度は,規則化と相分離を伴う相変態過程を示すTi-Al-Mo3元合金の微細構造を,主に分析電子顕微鏡を用いて解析した.はじめに,平衡状態においてα(D0_<19>),β(B2)あるいはγ(L1_0)規則相を有する種々の組成のTi-Al-Mo合金試料をアーク溶解により作製し,X線回折実験および焼鈍組織の観察を行った。高温構造材料として期待される本合金の規則化は極めて速く,規則化初期段階を想定して高温域から焼き入れた試料は,平衡状態と同一構造の規則相からなる組織を有していた.しかしながら,試料内部のEDX組成分析により,同一構造の規則相間で組成のばらつきがあることがわかった.そこで,化学量論組成がTiAlであるγ相の規則状態に着目し,種々のγドメインの原子配列をIKL-ALCHEMI-EDX法により調べた.その結果,添加元素であるMoは,ドメイン組成がTi-richの場合はAlのサイトに,Al-richの場合はTiのサイトに多く存在する傾向が認められた.すなわち,Moはホスト元素であるTiとAlのサイトのうち化学量論組成よりも少ない方を優先的に占有することが判明した.γ相中のMoは,TiとAlいずれの元素に対しても結合力が弱く,規則化にはあまり寄与しないことを本結果は示唆しており,共有結合性元素であるMoを第3元素として添加したTi-Al-Mo合金の規則-不規則変態に関する,極めて重要な知見を与えるものである. 現在,Moの固溶限ならびに組成変動がγ相よりも大きいβ相についてIKL-ALCHEMI-EDX実験を行い,規則ドメイン内部の原子配列の解析を進めている.また,Ti-Al-Mo3元合金における規則-不規則変態に対する理論面からのアプローチとして,統計熱力学的手法の一つであるクラスター変分法を規則状態の解析に適用することを試みている.
|