高効率の薄膜太陽電池、短波長発光デバイス、あるいは非線形光学材料等への応用が期待されているカルコゲナイドセラミックスの構造と物性の関係を明らかにするため、以下の研究を行なった。 まず、気相法によってAgGaS2、AgGaSe2、CuInSe2などのカルコパイライト型三元系化合物単結晶を育成した。次に、これらの結晶性や双晶等の確認を電子顕微鏡やX線カメラを用いて行なった。 AgGaS2には4.2GPaに相転移が報告されている。高圧相の構造の決定を行なうために、ダイヤモンドアンビルと四軸型回折計を組み合わせ、5.2GPaにおける回折強度データの収集を行なった。得られた強度データをもとに高圧相の原子配列の決定を行なった。高圧相は単斜晶系をとり、原子配列が常圧相のそれからわずかに歪んでいる。この転移は二次の可逆的な相転移であると推定された。カルコパイライト型の構造には6個のS原子と3個の金属原子からなる大きな間隙が存在する。高圧力下ではこの空隙が2種類の独立なに別れるが、その一つがかなり小さくなっていることを明らかにした。わずかな原子変位によって起こるこのような微細な構造変化を、高圧力下で直接決定した例は今までに例がないと思われる。 一方、InSeS2については二次元検出器を用いて構造を精密化し、4軸型回折計によって得られたデータと比較した。2次元検出器を用いて得られたデータは従来方法で得られたデータと変わらない質をもち、測定時間の面からは圧倒的に短縮できることが分かった。これを利用して、カルコゲナイド化合物の高温や高圧下における動的な変化を調べる道が拓かれた。
|