研究概要 |
昨年度は、単原子層積層制御によって作製したL1_0型FeAu人工規則合金とFe(xML)/Au(xML)人工K格子(x=1,2,3,…;MLは1原子層厚の意)との比較・検討を行ったが、本年度はさらにこれを発展させ、xが1.25や1.5のような非整数にして人為的に界面に凹凸を加えた場合に、xが整数の場合と比較して、積層構造や磁気物性がどのような影響を受けるかを詳細に調べた。X線回折の結果、xが非整数の場合でも、x+x=MLの積層周期に対応する明瞭な超格子ピークが観測された。このX線回折パターンは、完全なlayer-by-layer growthを仮定したコヒーレント積層構造モデルで、定性的に再現できることがわかり、xが非整数の場合でも、整数の場合と同様に良好な超格子構造が維持されていることが示された。磁化曲線から垂直磁気異方性を評価した結果、垂直磁気異方性定数K⊥とFe層厚t_<Fe>の積K⊥・t_<Fe>は、xが整数の場合、多くの人工格子に見られるようにt_<Fe>に対して直線的に減少する。ところが、xが非整数の場合は明らかにこの直線関係からずれ、全体としてK⊥・t_<Fe>はt_<Fe>に対して1原子層周期で振動する振る舞いを示す。これは、xが非整数の場合、界面の凹凸により界面磁気異方性が減少した結果と考えられる。人工格子の垂直磁気異方性が磁性層厚に対して振動する現象を見出したのは、本研究が世界で初めてである。また、強磁性共鳴法やトルク法を用いて、膜面内の4回対称磁気異方性の測定も行った。4回対称磁気異方性も、垂直磁気異方性と同様に、t_<Fe>に対して1原子層周期で振動的に変化する。特に興味深いのは、xが非整数のときは、バルクの Fe とは対照的に、[110]が磁化容易軸となることである。このことは、Fe/Au界面では[110]方向ステップが走りやすいことを示唆している。今後は、高分解能TEM観察やin-situ STMによって、界面構造と磁気異方性との関係を原子レベルで解明していく予定である。
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