本研究は空気中の酸素をドライビングフォースとし、Cuと助触媒の酸化還元系でエネルギーの受け渡しシステムを構築し、その自己代謝系を利用して「合成材料の自己的な疲労回復」の可能性を探る基礎的研究である。第一年度にポリフェニレンエーテルをモデル材料として触媒を中心とした検討を行ったのに続いて、第二年度には純酸素中のみで自己的に代謝しなかった合成材料の活性の向上を研究し、また代謝システムの実証のために自己代謝で発生する水の定量などを行った。その結果、(1)合成材料の自己的な代謝が認められた(2)純酸素中以外での代謝が可能である触媒系が発見された(3)有機材料の疲労課程で発生する分子量の低下を補償する結果を得た。すなわち、本研究の着想に至る基礎を作った研究によって高分子成形体の経時的、環境的構造変化と、拡散係数、緩和時間、反応性、弾性率変化、及び微細構造変化、有機材料疲労のメカニズムなどを明らかにしたことの成果と、本研究の代謝システムの知見を総合した成果を得ることが出来た。特に本年は実際の材料の疲労過程に相当する繰り返し力学負荷を合成代謝材料にかけて、その分子量の変化を見ることが出来るようになり、有機材料疲労の主な一時要因の一つである分子量の低下を自己代謝的に補償する可能性が示唆された。また、触媒の改良の結果、酸素濃度20%のレベルで自己疲労回復が達成できること可能性を明らかにした。これらの結果は、今後の研究によって自己疲労回復材料の創製ばかりでなく、代謝系の研究を通じて損傷箇所を自己的に修復する一般的概念に拡大しうる可能性を得た。この研究には新たな研究資金、機器、実験手法の構築が必要である。
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