研究概要 |
外部的環境や経時的に損傷を受けた材料が損傷箇所を自己的に補修する可能性を探る研究として、ポリフェニレンエーテル(PPE)を対象材料として選択して研究をおこなった。繰り返し力学負荷、熱負荷及び光負荷の場合に損傷が主として分子量の低下であることを明らかにし、その上でPPEの分子量の回復について実験を行った。PPEの分子量はCuの存在下、もしくは存在しない状態で分子量が4000〜40,000の領域で変化することがわかった。温度領域は一10℃から80℃である。溶媒中では40℃、Cu存在下で急速に分子量の変化が起こる。この基礎実験データに基づき、溶媒を含まない高分子材料及び少量の溶媒を含有する材料について窒素中及び空気中での分子量の回復を観測した。その結果、窒素中及び溶媒を含まない材料では分子量の回復は小さかったが、溶媒を含み空気中での実験では顕著な分子量の増大が観測された。予想を上回る成功である。すなわち、本研究に用いた対象材料は、損傷箇所の回復触媒にCuが有効であり、エネルギーの継続的補給源として空気中の酸素、生体での排泄物に相当するものとしてH2O,使用後のCuは酸素によって継続的に自己再生される、という自己疲労回復性システムが動いていることが明らかになった。また、高分子末端の衝突確率は少量の溶媒存在下で十分であることがわかり、短時間の実験では溶媒を含まない材料では分子量の変化は顕著ではなかったが、拡散係数の推定では、疲労などの長期間での損傷には十分に無溶媒系でも損傷回復の可能性があることがわかった。また、分子量の回復時に水素を発生し、排泄物として水を発生するが、そのときの水素の補給源がPPEの側鎖である可能性があり、継続的な水素源を考慮する必要があることが明らかになった。
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