酸化イリジウム被覆チタン基体電極が鋼板の高速表面処理用不溶性陽極として十分な性能を発揮するには、有機添加剤を含む電解浴において5000時間を超える実用規模の電解耐久性をもつことが必要である。そうした高性能金属電極の開発を目指す中で、われわれはコロイド状シリカがもつ高い結着能力に着目し、ナノメートルサイズのシリカ微粒子をゾルとして分散した触媒塗布液を検討することにより注目すべき結果を待ている。すなわち、単一組成の塗布液について基体への塗布と焼成・熱分解を反復して得られる金属電極は、通常の100倍濃度の侵食性有機物を含む浴において、触媒塗布回数の増加に対し、寿命が従来の基本形であるタンタル酸化物系電極を超え、塗布回数の2.0〜2.3乗-タンタル酸化物含有電極では1.0乗-に依存して増大した。従って、ある組成の塗布液から寿命1年の電極を作るのに必要な触媒塗布回数は、タンタル酸化物含有電極では約700回と推定され事実上達成不可能であるのに対し、シリカ含有電極では約27回となり1/26の塗布回数で達成できることが分かった。シリカゾルを添加することで発現するこのような寿命拡大作用の根拠を明らかにするため、本科学研究費補助金交付初年度においては、SEM・XFA・EPMA等による電極表面の観察、触媒担持量と塗布回数の定量関係の確定および触媒層深さ方向の組成分析等を行った。その結果、触媒担持量は塗布回数とともに一定割合で増加すること、触媒層は基本に近いほど緻密かつシリカ濃度が大きいこと等が示された。これらの観測結果に基づき、シリカ含有の金属電極では、基体からの距離に依存して触媒層内で耐久性に分布が生じ、その総和として電極寿命が著しく増大するというモデルにより寿命拡大の機構を説明した。
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