研究概要 |
工業電析で酸素発生極として用いられる鉛陽極は,電解電力の削減や省力化を進める観点から,金属電極に転換することが望まれる。酸化イリジウム電極はそのような要請に応え得る電極のひとつであるが,耐久性においてなお検討すべき余地が残されている。電析用電解液には,通常有機の調整剤が加えられているため電極触媒の消耗速度が異常に大きく,その寿命(半年未満)は食塩電解における値(約10年)に遠く及ばない。本研究代表者らは,触媒中のタンタル酸化物に代わる共存化学種としてコロイド状シリカを導入して新しい金属電極を焼成し,耐久時間と触媒積層数の自乗の問に比例関係が存在することを見い出した。この関係に従えば,寿命1年の電極を作製するには,従来型では約700の積層数が必要であるのに対し,この新しい電極では約27の積層数で済むことになる。このことから,コロイド状シリカが高耐久性電極を作製する上で優れた特性をもつことが分かった。また,このような寿命拡大作用に対するひとつの解釈として,触媒の消耗速度が基体に近い層ほど小さい値をとるというモデルを提出した。申請時までに得た以上の研究成果に引き続いて,交付初年度では,モデルの基盤を確立するため,SEMとEPMAにより触媒層断面の観察と分析を行なった。その結果,シリカは深さ方向に傾斜分布しており,基体に近い触媒層におけるほどその含有量が大きいことが分かった。交付2年度では,XRFで触媒の担持量を測定し,積層数との間に比例関係があることを見い出した。これらの観測結果に基づいて,先の寿命に関する自乗則をモデルを立てて説明し,コロイド状シリカが酸化イリジウム電極の高寿命化を達成する上で優れた素材になることを示した。
|