研究概要 |
工業電折で酸素発生極として用いられる鉛電極は,電解電力の削減や省力化を進める観点から,金属電極に転換することが検討されている。酸化イリジウム電極はそのような要請に応え得る金属電極のひとつと考えられるが,耐久性においてなお検討すべき余地が残されている。本研究代表者らは,従来から触媒中で共存化学種として用いられているタンタル酸化物に代わりコロイド状シリカを導入し,耐久時間と触媒積層数の自乗の間に比例関係をもつ新しい電極を焼成した。寿命1年の電極を作製するには,従来型では約700の積層数が必要であるのに対し,この新しい電極では約27の積層数で済むことになり,コロイド状シリカが電極の長寿命化を図る上で優れた性能を示すことが分かった。また,このような寿命特性に対する解釈として,基体に近い層ほど触媒が安定化しその消耗速度が減少するという仮定を提出した。これまでに得ている以上の研究成果に引き続き,交付初年度では,多段触媒層の構造を明らかにするため,SEMとEPMAにより断面の観察と分析を行なった。その結果,シリカは各段を横断して深さ方向に傾斜分布しており,基体に近い触媒層ほどその含有量が増大することを示した。交付2年度では,XRFで触媒の付着量を測定し,担持量と積層量の間に比例関係があることが分かった。これらの観測結果に基づいて,先の寿命に関する自乗則をモデルにより説明し,ゾルとして組み入れたシリカが酸化イリジウム電極の長寿命化を実現する優れた素材であることを示した。
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