バクテリア腐食と推定された事例の解析を行うと共に、その施設から残留していた排水を入手して研究室レベルでの再現実験を行った。試験に用いた排水は活性炭を用いた工場排水処理施設から採取した。手溶接法によって板厚3mmのステンレス鋼板(304規格)上に各種の溶接金属を得て試験片とした。三角フラスコに約300mlの試験液を入れ。試験片をその中へ浸漬した。それを40℃一定に保持したインキュベータ-内に静置して時間経過と表面形状変化を観察した。一方、液中のバクテリアも微生物学的手法によって培養して生物顕微鏡で観察した。形態別には棒状と球状のバクテリアが確認された。試験液中の構成バクテリアは6〜7種であることが推定された。現在これらのバクテリアを(財)発酵研究所大阪の協力を得て特定中である。このようにバクテリア自身の性質を知ることは微生物腐食(MIC)を解明するために重要な項目であるので検討を進めている。次に62日間の浸漬試験ではMICが確認されなかった308綱溶接金属と316L綱とを用いた240日間の長期浸漬試験の結果について述べる。所定時間経過後、試験片を取り出して固定化処理後、走査型電子顕微鏡で表面を調べた。308及び316L綱でMICが発生していることが明らかとなった。308綱溶接金属ではスケルトン状の腐食孔がみられ、さらに孔の周辺から球状菌及びゼリービーンズ状のかん状菌が同時に観察された。また溶接金属表面には多数の微生物が付着しているのがわかった。このように微生物の存在と腐食発生挙動との関係を定性的ではあるか示すことができた。しかし確認されたバクテリアのどの種類のものが腐食と密接なつながりがあるのか、腐食発生能力に差があるのか等について今後検討する予定である。一方、試験液を120℃-20分間の滅菌処理をした後に用いて浸漬実験を行うと腐食は発生しなかった。このことからも微生物の関与が大きいことが裏付けられた。
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