陽極接合は、ガラスと金属との低温・精密接合法として近年注目されているが、その接合機構に関する基礎的研究は少ない。本研究は、下地金属の表面に各種金属のコーティング層を形成し、ガラスと陽極接合することによって、界面現象に対する金属特性の影響を系統的に調べ、接合機構の解明につなげることを主目的とする。 ガラス側の接合試片はホウ珪酸ガラスとし、一方、下地金属は、ガラスとほぼ等しい熱膨張係数をもつ鉄基合金コバ-ルとした。まずコバ-ル合金自身をガラスと接合した結果、接合界面の近傍のガラス中にNa欠乏層が形成され、さらにこの中にKの欠乏層と濃化層が形成されることが分かった。これらの欠乏層内のさらに界面の近傍に、厚さ約100nmの非常に薄いFe-Si系非晶質酸化物層が形成されることを、透過電子顕微鏡観察によって見いだし、従来、接合媒体と示唆されてきた陽極酸化層の形成を実証した。 Feと比べて、ガラス中へ陽イオンとして拡散侵入することが非常に困難な、SiおよびAlをガラスと接合した場合、接合面の密着化が著しく加速され、一方界面近傍のNaおよびK欠乏層の幅は非常に狭くなった。これと比べてガラス中に多量に拡散侵入し得るAgの場合は、Na欠乏層は非常に幅広くなったが、Kの欠乏層および濃化層は認められず、代わってAgがNa欠乏層のほぼ全域にわたって侵入していた。但し、Agのガラスとの接合強さは非常に低い。これらの結果について、ガラス中の電位分布の解析に基づき検討を加えた結果、Na欠乏層中に形成される非常に強い電場を、金属から供給される陽イオンが打ち消す効果を考えることによって、いずれも説明することができた。 さらに、ガラスとコバ-ル合金との継手に接合時とは逆方向の電圧を印加することによって、界面分離し得ることを示し、継手の分離の可能な接合法としての可能性を示唆した。
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