溶融塩や低融点金属などによる金属の高温環境劣化割れのメカニズムの解明を目的として、微弱な面外変位を計測できる新しい耐熱アコースティックエミッション(AE)センサーを試作するとともに、媒体の速度分散や減衰を考慮した定量的AE原波形解析を行なった。すなわち、絶縁アルミナをキャパシタンスとする静電容量型センサーとLiNbO_3素子を用いるコニカル型センサー(アメリカNBSタイプ)を試作し、高温媒体の音響特性を計測すると共に、都市ゴミ発電プラントを模擬した混合塩化物による600Cでのオーステナイトステンレス鋼の損傷を世界に先駆けてモニターした。破壊のダイナミックスは、仮定した破壊モードと速度に対し、グリーン関数と応答遅れ関数を畳み込み積分し、波動減衰の補正項をかけることによって面外変位を計算し、計測面外変位と比較する前進法によって求めるコンピュータアルゴリズムを構築した。その結果、引張り応力が作用している条件では、粒界に沿う極めて高速な破壊(最高速度40m/s)が関与していること、この破壊は溶融塩によるgrain boundary cohesion(粒界凝集力の低下)によって誘起されることを明らかにした。オーステナイト系ステンレス鋼は、溶融亜鉛や溶融銀ろうでも脆性的な破壊を受けるが、この現象でも劈開型、専断型の高速破壊によるAEが頻繁に検出され、1-2結晶粒オーダーの高速破壊が関与していることを明らかにした。また、後半では、取扱いの容易なLiNbO_3素子を用いた面外変位計測型の耐熱コニカルセンサーを開発し、600Cまでの面外変位の直接計測に成功した。しかし、音源位置評定用に開発した小型耐熱センサーは、感度が十分でなく今後改良する必要があることが判った。高温でのAE計測システムを構築するという、初年度の目的はほぼ90%達成できた。
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