本研究は、カプロラクタム-水系をモデル系とし、傾斜型晶析塔による分離・精製の際に必要となる種々の基礎的知見を蓄積し、さらに傾斜型晶析塔の設計および運転に必要な基本的な解析法の提案を行ったものである。本研究で得られた成果は次のとおりである。 1. 精製効果に及ぼす晶析塔の精製部の長さの影響を検討し、精製部を長くすることにより不純物(水分)組成が小さくなり、精製効果が向上することが確認された。 2. 晶析塔内で析出した結晶の様子を検討したところ、精製部における上部と下部では結晶の大きさが異なり、上部(冷却部近傍)で析出した結晶よりも下部(融解部近傍)で析出した結晶の方が粒子が小さく、融解部付近の方が結晶粒子群が密に詰まっていることが確認された。 3. 晶析塔の精製部における融液組成分布を検討したところ、精製部の位置により不純物(水分)組成に差異があることが示された。また、本研究で提案した軸分散(逆混合)モデルにより、融液組成分布を良好に表現することができることがわかった。得られた軸分散係数は、他の晶析塔に対して報告されている値とほぼ同程度であったが、精製速度係数については、単純共晶系に対して報告されている値と比較して小さいことがわかった。さらに、解析の結果、精製部の上部では逆混合が支配的であり、精製部の下部では精製が支配的であることが明らかになった。 4. 傾斜角度を変化させることにより、分離特性に及ぼす傾斜角度の影響を検討したところ、傾斜角度の差異による融液組成分布の違いはほとんどないことがわかった。さらに、傾斜角が大きくなるにつれ、不純物(水分)組成が小さくなることが示された。また、軸分散(逆混合)モデルにより融液組成分布を解析したところ、軸分散系巣は傾斜角が大きくなるほど大きくなることが示されたが、精製速度係数は傾斜角に対する明確な傾向がないことがわかった。
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